1973年にリリースされた6作目のスタジオアルバム。学生の時にレコードを買って以来、素敵なイラストが飾る冊子のようなアルバムを眺めながら、飽きるまで聴いた作品です。スティーブ・マリオットの自宅スタジオで制作したそうですが、録音機器や環境の問題なのか、音がスカスカで低音に迫力がなく、定位やバランスに難があると思われる曲がいくつかあると思っていました。A&M50周年でボックスセットでは、リマスターがなされ大分音質は改善されましたが、音の定位やバランスまでは変わらなかったです。改めて本作をじっくり聞き直してみましたが、スティーブ・マリオットの溢れる才能を記録した素晴らしい作品であり、残念ながらピークとなってしまったアルバムです。
- Get Down to It
- Good Booze and Bad Women
- Is It for Love?
- Drugstore Cowboy
- Black Coffee
- I Believe to My Soul
- Shut Up and Don’t Interrupt Me
- That’s How Strong My Love Is
- Say No More
- Oh, Bella (All That’s Hers)
- Summer Song
- Beckton Dumps
- Up Our Sleeve
- Honky Tonk Women
- (I’m A) Road Runner
- Road Runner’s ‘G’ Jam
ローリング・ストーンズの「EXEIL ON MAIN STREET」のアルバム構成を意識しているようで、ハンブル・パイの4つのスタイルを2枚組LPの各面で展開してる。
ロックサイド
ロック面は4曲すべてがマリオットのオリジナル曲。“Get Down to It” はボーカリストして磨きのかかったマリオットに、黒人女性隊のコーラスが絡む、ハンブルパイ流の疾走するロッキンソウル。ドラムが片方に寄ったバランスと低音の迫力不足には不満がある。ロックサイドでは正式加入となる黒人女性コーラス隊ブラックベリーズを活かし、ミディアム、カントリー風なエレクトリック・バラード、リズムに変化を持たせた曲でもソウルに満ちたスワンプ風味のロックを展開している。アイク&ティナ・ターナーの「Black Coffie」を次面でカバーしているが、彼らがブルース&ソウルの立場からロックへの接近とすれば、本面はロックサイドからブルース&ソウルへの接近であり、スティーブ・マリオットという天賦の才をもったアーティストの最高の成果を記録したアルバムだと思います。
リズム&ブルースサイド
アイク&ティナ・ターナー、レイ・チャールズ、ジュニア・ウォーカー、オーティス・レディングの曲をエレクトリックなロックバンドの編成で、しかもアイク&ティナ・ターナーやレイ・チャールズのバックシンガー務めた本人達を従え、スティーブ・マリオットが情感たっぷりに歌い上げる。これらのカバー曲を通じて自分たちの音楽的ルーツに敬意を表しつつも、独自のスタイルで再解釈し、新たな命を吹き込み、リズム&ブルースとロックの融合を果たしている。ジュニア・ウォーカーの” Shut Up and Don’t Interrupt Me”だけは、長年未聴でしたが有難いことにyou tube で簡単に聴けるようになった。この原曲はエドウィン・スターが作者に加わり、ウォーカーの声もサックスも素晴らしい。ハンブルパイは演奏の迫力で優り、マリオットの声はウォーカーのそれに迫る。このサイドでは、特にマリオットのボーカルが際立っており、このアルバムのハイライトです。
アコースティックサイド
マリオットのオリジナルによるアコースティックな曲が中心。ピーター・フランプトン在籍時のアルバムを彷彿とさせる、カントリー調でソフトでメランコリックな感触。レイドバックしたユルいサウンドが聴ける。少しキャッチーなメロディやフック、アレンジに欠けるかなと思います。ところがこの面最後にアコースティクではない” Beckton Dumps”が収録されている。曲中でテンポがコロコロ変わる編曲が妙で、朝の寝起きのグダグダや、犬を撫でたり煙草を吸ったりするユルい歌詞も面白い。こんなユニークな曲をエレクトリックなロックとしてまとめるマリオットの作詞作曲の巧みさが光ります。曲名の“Beckton Dumps” はロンドンにある産廃処理場として知られているそうです。愛犬のお散歩コースなのかもしれない。
ライブサイド
デイヴ・クレムソン加入後のグラスゴーでのライブ音源3曲を収録。「フィルモア・ライブ」で当てたハンブルパイのハードなライブ・サイドは欠かせない。ストーンズの” Honky Tonk Women”の解釈と演奏は面白いが、ジョー・コッカーと同じですね。ストーンズ本家バージョンを超える評価は行き過ぎだと思う。音質が少々悪いことも残念だが、LPの収録時間に限りがあるとしても、3曲というのは中途半端だと思います。
現在では、「EAT IT!」発売時期の1973年5月6日、サンフランシスコ、ウィンターランドシアターでのライブを収録した「キングビスケット・フラワーアワー」での放送音源が、最高の音質でCD化されている。ハンブルパイ&ブラックベリーズの頂点を極めた演奏が聴ける。ライブサイドの3曲を含め「洞穴の30日間」「ホット&ナスティ」も最高にドライブの効いた演奏で楽しめる。

Humble Pie Takes The Biscuit At Winterland Theater 1973
1. Up Your Sleeves
2. 4 Day CreepC’mon Everybody
2. Honky Tonk Woman
4. Stone Cold Fever~Blues I Believe To My Soul
5. 30 Days In The Hole
6. Road Runner
7. Hallelujah, I Love You So
8. I Don’t Need No Doctor
9. Hot N’ Nasty
”MY GENERATION”で「25歳になる前に死にたい」と書いた作詞家ピートも歌手ロジャーも、2025年現在もザ・フーとして”MY GENERATION”を歌う。同時期にデビューし、共に英国ロックの礎を築いたスティーブ・マリオットの晩年は、ハンブル・パイも解散し、パブで演奏することで日銭を稼ぎ、寝煙草で焼死するバッドエンド。同世代の英国R&Bシンガー達、ロッド・スチュワート、ミック・ジャガー、ステーブ・ウィンウッド、ヴァン・モリソンらが活動を続けている姿を見ると、もし彼が生きて意欲的に創作活動ができていたらと思わずにはいられない。
よく言われる締めですが、天国でロニー・レインと仲良くセッションしている姿を想像し、マリオットさんに感謝の意を表したい。
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