1972年にブルーノートから発売されたリー・モーガンの最後のアルバム「ラスト・アルバム」。ロゴのデザイン、ノーマン・シーフ撮影によるリーダーの佇まいがクールです。
- Capra Black (15:31)
- In What Direction Are You Headed? (16:29)
- Angela (6:24)
- Croquet Ballet (10:51)
- Inner Passions Out (17:36)
Lee Morgan – trumpet
Grachan Moncur III – trombone
Bobbi Humphrey – flute
Billy Harper – tenor saxophone, alto flute
Harold Mabern – piano, electric piano
Reggie Workman – bass, percussion
Jymie Merritt – electric upright bass
Freddie Waits – drums, recorder
本作は、黒人解放運動が盛んだった時代におけるジャズから同胞へのメッセージと言える作品。アルバムを特徴付けるのは当時新進気鋭のテナー奏者、ビリー・ハーパーの提供した2曲。コルトレーンの影響を独自のボイスに昇華したビリー・ハーパーのテナー音色、黒人霊歌のように厳かで憂いに満ちた作風は本作の基調をなしています。
Capra Black
山羊座生まれのビリー・ハーパーの作。アルバムのコンセプトを深読みすればCapra Black=黒山羊。奴隷として運ばれた黒人の血が不当に流され、投獄されるアメリカ社会の不条理への暗黙の抗議と追悼なのでしょうか。黒人霊歌の如く厳かに奏でられるアンサンブルとハーモニーには、心地のよい揺らぎがありますが、同時に不協和音も感じさせます。当時のアメリカ社会のおける分断やメッセージ性を除いていても、70年代のブルーノートのジャズとして、スピリッチュアル・ジャズ、フュージョンの先駆けとして聴き継がれるべき素晴らしい曲です。ハーパーの自身のリーダー作『Capra Black 』(73年)にも収録され、アルバムはリー・モーガンら先人のジャズメンに捧げられている。
In What Direction Are You Headed?
ピアニスト、ハロルド・メイバーンの作。これも意味深なタイトルですね。ハロルド・メイバーンはモーガンの「Live at Light House」にも参加している。 またプレステージのアルバム「Greasy Kid Stuff!」(70年)にリー・モーガンが1曲参加しています。私にはライトハウスでの生ピアノの演奏が気に入っていますが、ソウルジャズな彼のアルバムとエレピはとても好きです。
Angela
「Live at Light House」に参加しているエレクトリックアップライト・ベースのジミー・メリット作。黒人解放運動の象徴である女性運動家アンジェラ・デイビスのへ捧げる曲でしょうか。ローリング・ストーンズの”Sweet Black Angle“ やジョン・レノン&ヨーコ・オノの1972年のアルバム『Some Time in New York City』で言及された”Angela”としてお馴染み。
Croquet Ballet
ビリー・ハーパーの作。芝生で小さなボールを木槌でゴールに入れるゲームと優雅なバレエの造語だとしても意味は何?この曲でテナーサックスが奏でるテーマの青い炎の如き力強さと優雅さを意味しているのでしょうか。複雑な構成に素晴らしいアンサンブルとハーモニー。それぞれのプレイは熱くならず厳かですが、しっかりハーモニーを奏でソロはしっかり主張をする。このアルバムを象徴する名曲です。本作が初披露曲ですが、後のハーパー自身のリーダー作『Black Saint』(75年)で再録をしていまる。スピリッチュアルなハーモニーは控えめに、ハードボイルドなジャズの雰囲気が増している。
Inner Passions Out
篳篥みたいな音は、アフリカを感じさせてくれます。この民族音楽的な導入はAAOCのそれを想起させてくれますね。でも尺が長いです。
あとがき
1969年生まれの私が20代後半で聴いたアルバム。当時ロック、ソウルやブルースを好んで聴いていたので、ジャズは通なおじさまが聴く音楽と敬遠していました。
当時、同僚だった「JAZZじゃ」のマーク・ラパポート氏が、ジミヘンが好きの私に勧めてくれたのはマイルス・デイビスの「アガルタ」と「パンゲア」。それからマイルスのサイドメンバーを聴き進め、カルロス・ガーネットの「ブラック・ラブ」あたりでテナーとトランペットが好みだと分かる。マークさんが次に勧めてくれたのがビリー・ハーパーの「ブラック・セイント」。そこからリー・モーガンの「ラスト・アルバム」までさほど時間はかからなかった。
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