Rolling Stones [Dirty Work]

Rolling Stones [Dirty Work] ROCK

ローリング・ストーンズ『ダーティ・ワーク』(1986年)
トレンディな装いのジャケットはバブリーな時代を反映している。ミックのソロ活動にキースが腹を立て、バンド内の不和がアルバムに製作に影響を与えたと指摘されているが、それほど悪くないと思う。キースはこのアルバムのリリース後、インタビューに答えて「100%出来に自信がある」言っていた。自身のボーカル曲を2曲採用しているのも初であり、キースの主導で制作されたというのも納得である。(ソファーの真ん中に一人ドカ座りのキースの得意げなこと。ミックの足はフロントマンとしての意地の表れだろうか。)いくつかの曲にチャーリー・ワッツやビルは参加せず、セッションマンが代わりを勤めている。

Rolling Stones [Dirty Work]
amazon Dirty Work
  1. One Hit (To the Body)
  2. Fight
  3. Harlem Shuffle
  4. Hold Back
  5. Too Rude
  6. Winning Ugly
  7. Back to Zero
  8. Dirty Work
  9. Had It With You
  10. 10. Sleep Tonight

1. One Hit (To the Body)
映画「マッド・マックス」のような終末観と、当時のミックとキースの険悪な関係をストレートに反映させた演奏シーンで構成された『ワン・ヒット』のプロモビデオは、単純にカッコよかった。キースの独特の間を活かしたコードリフは曲全体を通してスキャンダラスに響く。このスタイルを全面に展開した88年の「Talk Is Cheap」を聴き、本作の主導権はキースだと確信した。

プロモビデオは、ロン・ウッドのアコギのイントロから始まり、ミックとキースが敵意をぶちまける歌詞は、一触即発の緊張感と怒りに満ちている。ボクシングを引用したボディ・コンタクトは、互いの険悪な雰囲気を隠さない。当時高校生であった馴れ合いを嫌うダイハードな私の心を激しく揺さぶったはず。曲はアコギのアウトロで締めくくる。今聞き返しても緊張感にあふれる雰囲気に特徴的なギターリフが絡む普遍的な魅力は色褪せない。

2. Fight
ボディへの一撃の次は「闘え!」。「鼻のあった場所に穴があるぜ」「血まみれの天井」というように、キースのミックに対する怒りは収まらず、むしろ血を見るまでとことん闘ってやると述べている。ギターは音の粒子まで分かりそうなクリアなサウンドで怒りに満ちた「ジャンピンジャック・フラッシュ」的なハードなリフを刻む。それをミックに歌わせますかね。

3. Harlem Shuffle
1963年ボブ&アールの曲。ジョージ・ハリソンはこの元曲を「史上最高のレコード」と称賛した。当時人気のクリエイターとコラボしたアニメと実写を融合させたプロモーションビデオは一体何であったのだろう実に謎である。クリアなサウンドは曲に新たな息吹を加えようとしているのだろうが、あまり具合はよくない。私もボブ&アールの原曲「ハーレム・シャッフル」を愛聴している。もともと原曲に則して、ソウルの大先輩ボビー・ウーマックさんとのデュエットだったのをミックス時に声を消されて可哀そうなボビー。

3. Hold Back
「ちょっと待って。賢い俺の話を聞け」と。今度はお説教でしかも恐喝的である。ミックは、喉を潰し気味にシャウトしている。疾走感のある曲に、輪郭のはっきりしたベースとメタリックハードなギターのアンサンブルは、後に登場するMr. BIGを思い出せる。ユーモアや風刺、皮肉の効いた詞を適度にハード且つポップに仕上げるのがストーンズの持ち味だと思っているが、少々強面すぎてストーンズらしくない。

4. Too Rude
キースによるダビーなレゲエのカバー曲。タイトルはジャマイカ風にいえば「あまりにも無礼な奴」となる。ここでも一貫したアルバムのテーマ「怒り」は継続している。レゲエ界の大スター、ジミー・クリフがコーラスで参加。

5. Winning Ugly
「どんなに汚い手を使っても勝つ」と。勝利の為に手段を選ばない姿勢、成功のために弱者を犠牲にすることを厭わない態度が実に不適切。これはミック主導の歌詞かもしれません。ミッドテンポでダンサンブル、ギターも程よく主張し、リズムも弾む。歌詞を分からず聴けばそれなりに気持ちがよい。

6. Back to Zero
元オールマン・ブラザーズバンドのキーボード担当チャック・リーヴェルが共作している。ミックのソロを想定した曲をストーンズが採用した感じだろう。ハードなアルバムの中では異色。

7. Dirty Work
ポップさも分かり易いリフもない。ストーンズの名曲にあるマジックもないが、“Dirty Work” は悪くない。ギターが短いフレーズを刻み、左右の2本もしくは3本のギターが曲をハードにドライブさせている。タイトルの「汚い仕事」とはどういう事だと興味を持ったのがきっかけだが、これは権力を持つ者が他人に不快な仕事を押し付ける行為を指している。汚い奴の行いを英語で表現するとこうなるかと大変勉強になった記憶がある。歌詞には「どっかの阿保に汚れ仕事をさせ、お前は日向ぼっこしながら終わるのを待つだけさ」とあり、これはミックがソロ活動に集中し、ストーンズのお仕事を二の次にする態度へ、あからさまなキース・リチャーズからの皮肉だと言われています。しかもこれをミックに歌わせるからね。私にとって昔からお気に入りのかっこいい曲です。

8. Had It With You
ブルース調のハードなブギーで、これもキース作のミックへの愛憎交じりの悪口。ロン・ウッドが共作で、変なサックスもプレイしているはず。ベースが不在で音は薄いはずなのにこの厚みのある演奏と単調な曲を聴かせる構成力。ミックによるハーモニカも音色も楽しい。

9. Sleep Tonight
ボディへの一撃から最後は「少し寝た方がいいよ」と優しいセレナーデで終わる。キースのバラードはこの曲で極まり、以降のソロアルバムのバラードの形はここにあると思う。この曲の余韻として前年に亡くなった元ストーンズのピアノ担当イアン・スチュワートの弾く”Key to the Highway” で締めくくる。

あとがき
プロデュースにキースが推したスティーブ・リリー・ホワイトがいるので音の作りは80年代風。ビル・ワイマンは3曲にしか参加をせず、チャーリーはアル中でろくに叩けなかったそうです。そんな事情もあり、ストーンズのアンサンブルを聴けない駄作の烙印を押されているが、私としては学生だった頃にリアルタイムで聴いたアルバムだけに思い入れのあるアルバムです。結局ミックとの不仲は解消することなく互いはソロ活動を開始し、キースは自身のバンドを結成し評価の高いソロアルバムを発表した。

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