1981年発売の「Tattoo You」は以前の録音セッションのアウトテイクに追加録音をして作品としてまとめた作品。LP時代の作品なので収録11曲で約44分23秒。このくらいのコンパクさだと全曲をありがたく傾聴できる長さ。個人的にはテナー・サックスの巨人ソニー・ロリンズを初めて知ったアルバムで、以後この巨人のアルバムを聴き集めすっかり虜になってしまいました。
- Start Me Up
- Hang Fire
- Slave
- Little T&A
- Black Limousine
- Neighbors
- Worried About You
- Tops
- Heaven
- No Use in Crying
- Waiting on a Friend
1.Start Me Up
元々「山羊の頭のスープ」制作時のアウトテイクでレゲエ調だったらしい。(今ではデラック・エディションで聴ける。)ミック・ジャガーは80年代のストーンズを代表するヒット曲と言った。70年代を代表する”Miss You”のようなディスコビートでもなければファンクでもない。チャック・ベリーやプレスリー等の影響下にあるロックン・ロールと呼ぶのには少し抵抗もあるが、2本のギターが紡ぐリフはシンプルだが立体的で、狙った間に大胆にスマッシュする。ホットなビル・ワイマンベースのベースは素晴らしく、チャーリー・ワッツならではリズムワークは、まったくもってストーンズ印である。
ジョージア・サテライツのダン・ベアードが「スキャンダラスな曲」と言っていたように、日本人の自分が英詩を読んでも性的隠喩というより、露骨であるのがよく分かる。ある意味大胆なのかブロンディ率いるデボラ・ハリーがライブでカバーしている。久しぶりにyoutubeでこの曲のプロモビデオを見ると、紫色のピタピタ肌着の若いミック・ジャガーとその動きはキモい。キースは今も昔も本当に変わらないかっこよさ。ロン・ウッドのミックに対してのウザ絡みは今に至るお約束のムーブ。なにより有難いのは、ビルとチャーリーによるリズム隊二人がそろった5ピースのバンドとしての演奏が映像で見られること。すべてのバンド・パーツが機能したストーンズ史に残る名曲。それにしてもボツ曲のサルベージで元はレゲエ調とは。名曲を作るバンド・マジックは存在するのですね。
2. Hang Fire
軽快なリズムのロックン・ロール。扱うテーマは失業、当時の政治や経済状況への皮肉に満ちた不満。”Hang Fire”とは火器がすぐに発火しない、遅発する。物事が未決定のままの状態、延び延びになるという意味らしい。前曲の流れで何か性的な暗喩も含まれているのかも。
3. Slave
曲はジャムセッション的な感じでThe Whoのピート・タウンゼントがコーラスで参加。ギターは弾いていないみたい。ソニー・ロリンズがサックスを吹いている。歌詞のテーマは、自由と束縛に対する反抗。繰り返される「Don’t want to be your slave」というフレーズは、誰かの支配下に置かれることへの拒絶を示している。
4. Little T&A
キース・リチャーズがボーカル。ふにゃふにゃと煮え切らないボーカルは、ある意味ジョニー・サンダースのようなNYパンク・スタイルなのか。リフレインの「She’s my little rock & roll / My tits and ass with soul, baby」で言うようにタイトルはおっぱいとおしりのこと。テーマもラフでこれもパンクなのかもしれない。
5. Black Limousine
ジャガー&リチャーズに加えロニーも作者クレジットに加わる。ブルースの定型リックを用いたハードなブルース調の曲。寂びたリムジンにかけて、かつての輝いた栄光を懐かしむ風情だが、キースは女性についての曲だと言っている。性的な暗喩に想像できる。
6. Neighbors
ミックとキースは70年代後半から80年代初頭にかけて、ゴッサム・シティの様に危険な街、ニュー・ヨークの住民だったそうです。キース自身が、お隣住民から騒音を理由に追い出された経験から書かれた曲だそうです。躁的なアップ・テンポの曲で、キースとロニーがゴリゴリとリフを弾いている。ジャズの巨匠ソニー・ロリンズのサックスがロックン・ロールである。プロモビデオも作られストーンズのエネルギッシュなパフォーマンスと、彼らのユーモアと反抗的な精神を表現している。
7. Worried About You
リズムギターが細かく弾む妙なミディアムバラード。エキサイティングな曲が続いたので少しペース・ダウンか。ミックのファルセットを交え起伏のあるメロディは癖になる味わい。
8. Tops
ミックの語り調のボーカルが素敵なソウルフルなスロー・バラード。キースのギターソロも盛り上げる。悪くない。
9. Heaven
ビル・ワイマンがギターとシンセサイザーで活躍。キースとロニーは不参加。Wikiに詳細がない。アルバムでは埋め草的なのかな。スローなバラードでフワフワしている。私もそんに聴かない曲。
10. No Use In Crying
この曲を知っていたので”No use crying over spilite milk”という慣用句を学校の授業で習った時は、得意げである。そんな思い出の曲。男臭いコーラスがこのアルバムの特徴。
11. Waiting on a Friend
娼婦とか聖処女を待ってるのではなく友達を待っているんだ。という歌詞は淡々と感動的である。メロディも素敵でニッキー・ホプキンスのピアノもうれしい。テナーの巨人ソニー・ロリンズのサックスもよく歌っている。当時そんなに関係の良い状態ではないはずのミックとキースが、和やかに待ち合わせ、ロンやチャーリーら待つバーに向かう。心温まる雰囲気のプロモ・ビデオは、ゼッペリンのフィジカル・グラフィティのアルバムアートで使われたマンハッタンのアパートで撮影された。
あとがき
大幅に拡張されたデラック・エディションを聴けるのは有難いが、コンパクトな本作を繰り替えし聴いた当時が懐かしい。私としてはマイルス・デイヴィスに並ぶジャズの巨人であるソニー・ロリンズを知る切掛けであったことがうれしい。「ブリッジ・トウ・バビロン」のライブツアーでジョシュア・レッドマンが吹いているそうですが、思い出が失せそうで見れません。
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