Rolling Stones [Their Satanic Majesties Request]

ROCK

1967年12月に発売された6枚目のスタジオアルバム。初のセルフ・プロデュースであり、アメリカ、イギリスで同一の内容となる初の作品。当のメンバーが酷評するアルバムであるが、曲単体で見れば彼らも認める通り”She’s a Rainbow”や”2000 Light Years From Home”等のカラフルでサイケデリックな曲を収録された作品です。決して名盤ではないかもしれないが、変なジャケットを見ながら年に一度は通しで聴きたいアルバムです。

  1. Sing This All Together
  2. Citadel
  3. In Another Land
  4. 2000 Man
  5. Sing This All Together (See What Happens)
  6. She’s A Rainbow
  7. The Lantern
  8. Gomper
  9. 2000 Light Years From Home
  10. On With The Show

1. Sing This All Together 「魔王賛歌」
お薬に関するおしゃべりやマントラを「みんなで一緒に歌おう!」とアルバムは始まり、しかも#5で繰り返される。今聴けばチープで薄っぺらなホーン陣やキースらしいギターのリフはご愛敬として楽しめる。

2. Citadel 「魔王のお城」
最近ではAmazon Primeのスパイ映画シリーズでも使われているタイトル“Citadel”は「城塞」を意味し、都市・特にニューヨークを象徴するものとして解釈されることもある。歌詞に登場する“キャンディ&タフィ”がアンディ・ウォーホールの“ファクトリー”に集ったスターたち――例えばキャンディ・ダーリンやタフィ・オダウ――を彷彿とさせる。(キャンディは自分の事だと喜んでいたそうです)幻想的で退廃的な彼らの存在は、楽曲の世界観と重なり合うようです。サウンドは突如としてヘビーな展開を見せ、当時のサイケデリック・ロックの枠を超えた挑戦的な試みといえる。ビートルズの“ヘルタースケルター”と並び、ヘビーメタルの原初的衝撃を感じさせる点でも注目に値する。批評家からの評価も概ね好意的で、パンクバンド・ダムドによるカバーも原曲の荒々しさをうまく引き継いでいる。

3. In Another Land

ベーシストのビル・ワイマンによって書かれた曲であり、ワイマンがリードボーカルを務めた唯一のローリング・ストーンズの曲。ピンク・フロイドにも通じるエフェクトかかった奇妙な曲で、しかもアルバムから第一弾シングルとしてチャートインを果たしている。ジャガーのバックボーカルが入るとストーンズらしい躍動感が出てくる。夢の夢という設定なのでエンディングでワイマンのいびきが挿入されるという。スタジオで寝落ちしたワインマンのいびきの実音だそうです。

4. 2000 Man
SF好きミックによる、マイナンバーや社会保険番号で管理されるディストピアを想起させる歌詞が面白い。フォーク・ロックぽい気持ちの良い出だしからハードに変調する展開は、同じく宇宙ネタやSFネタの好きなKISSのエース・フューレイがカバーするのも納得。たまに聴きたくなる隠れた名曲です。

KISS: 2000 Man (NYC ~ Aug 9, 1995)

5. Sing This All Together (See What Happens) 「魔王賛歌II」
サージェントペパーズ的にリプリーズ。ほぼインストジャムですが、贔屓目で見てなかなか引き込まれるものがある不思議な曲。タイトルに若干変化がありますが何か意味がるのでしょうか?皆で呪文を唱えたら何が起こるか見てみよう、だと思いますが肝心の歌がろくに出てこないインスト主体の曲。ネトフリでよくある悪戯で呪文唱えたらヤバいもの出てきちゃった系やコックリさんやウイジャ板でやっぱり変なのに取り憑かれたちゃった系の映画を思わせる内容を想像すると怖いですね。ストーンズとしても若気の至りとして触れてほしくない曲なのでしょう。

6. She’s A Rainbow
美メロでサイケデリック、クラシカルな雰囲気も併せ持つ60年代屈指の名曲。ジョン・ポール・ジョーンズストリングス・アレンジは壮麗にしてマッド。曲の主役はニッキー・ホプキンスによる優雅なエレピの旋律。LOVEの67年の “She comes In Colors”との類似・盗作疑惑も指摘されたそうですがLOVEが先であり、同じく美しい名曲で一聴の価値があります。1997年発売のカラフルなiMacのCMに起用された曲として思い出されます。商品とマッチした選曲がファインプレイです。

LOVE “She comes In Colors”

7. The Lantern
シングル “In Another Land”のB面曲。サイケ・フォークぽい曲調はシド・バレットによる初期ピンクフロイドを思わす奇妙にな曲。キースのエレキ・ギターは次作「ベガーズ・バンケット」でのブレイクを確実に感じさせてくれます。再評価の声はあるがいまいちというしかない。

8. Gomper
ボーカルはジャガーですが、笛やシタール?、打楽器やメロトロン等の全ての楽器をブライアン・ジョーンズが手掛け、彼のソロアルバム「ジャジューカ」同様に民族音楽的な響きと演奏が聴ける。

9. 2000 Light Years From Home
歌詞には「時間」「距離」「孤独」「宇宙空間」といったテーマが散りばめられており、宇宙旅行や時間の感覚の変容を暗示している。メロトロンやテープの逆回転でSFぽいコラージュ音も交えたサイケデリック・ロックですが、60年代の宇宙開発競争や科学の時代背景を踏まえたプログレッシブロックの先駆けとしての側面も見逃せません。

10. On With The Show
ポール・マッカートニーが時たま披露するイギリス的なミュージックショー、ボードヴィル調の曲。その後のストーンズの歴史に現れることのない調子の曲ですね。サーカス的なコンセプトアルバムのトリを務めるまたここでお会いしましょうというご愛敬の挨拶。68年の『ロックンロール・サーカス』とこの曲はコンセプトとして地続きのようです。

あとがき
1967年という時代背景を踏まえると、『Their Satanic Majesties Request』は、実験性と混沌を孕んだ音作りによって、当時まだアンダーグラウンドに位置していたピンク・フロイドやキング・クリムゾンの登場を予感させる、先駆的な(プログレッシブな)アルバムと捉えることができるでしょう。バロック調の旋律やストリングスの優雅さは、ロックとクラシックの融合を美しく体現しており、ブライアン・ジョーンズによる民族楽器の導入も、後のロックシーンにおける音楽的多様性の萌芽を感じさせる。

収録曲のうち、#6と#9はベストアルバムにも選ばれているが、それゆえにアルバム全体としての独自性や評価はやや埋もれてしまう印象も否めない。翌1968年には、ストーンズの方向性と評価を決定づける傑作『Beggars Banquet』が登場し、本作はその過渡期に位置づけられることとなる。

とはいえ、『Their Satanic Majesties Request』は、年に一度は通して聴きたくなるような魅力を秘めた佳作であり、ストーンズの創造性と混沌と混乱の記録として、今なお禍々しいくも美しい特別な輝きを放っている。

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