1969年にDECCAからリリースされた8枚目のスタジオアルバム。前作「ベガーズ・バンケット」の勢いをそのままに、アメリカ南部からの影響を昇華したストーンズのスタイルを確立した作品。大きな変化は創設メンバーのブライアン・ジョーンズが解雇され、ミック・テイラーが加入したこと。但し参加は2曲にとどまり、キース自身でギターを重ねている。多くの国でトップ10に入り、イギリスでは1位、アメリカでは3位を記録している。ブライアン・ジョーンズは解雇後、自宅プールで溺死体で発見される。

- Gimme Shelter
- Love in Vain
- Country Honk
- Live with Me
- Let It Bleed
- Midnight Rambler
- You Got the Silver
- Monkey Man
- You Can’t Always Get What You Want
Gimme Shelter
ベトナム戦争の影響から戦争の暴力と恐怖を描いたとされるが、実際には雷雨に驚いたキースが避難所に逃げ込んだ事からインスピレーションを得たらしい。ミディアムでグルーヴするアンサンブルは新機軸。エフェクターをかけたギターとサウンドスケープにはただ事でない緊張感を覚えます。黒人女性シンガーのメリー・クレイトンの人選が見事はまり、ミックとのデュエットは悲痛な叫びであり、扇動者か預言者の様である。本来はデラニー&ボニーのボニー・ブラムレットの代役だった彼女は、後にソロ・アルバム「ギミー・シェルター」でカバーしている。
Love in Vain
ロバート・ジョンソンのブルースのカバー。デルタブルースの素朴な弾き語りをカントリー色強めにアレンジしている。マンドリンでセッションに参加したライ・クーダーの影響は大きいようです。ミックはカントリー調で歌っていますが、何かのインタビューでミックは、自分はブルース・シンガーだから、カントリーはキースの声が合っていると言っていました。確かに今ならキースの声で聴きたいです。
Country Honk
「Honky Tonk Women」のカントリー風バージョン。フィドルが軽快に舞う爽快なアレンジ。資料によればこの曲の原型はここで聴けるカントリー風だったそうです。新加入ミック・テイラーが全く違ったアプローチのギターを見せたので、シングルはあのアレンジになったそうです。
Live with Me
すでに高い完成度を聴かせてくれるミック・テイラーとキースの初のアンサンブル。70年前半に試みるスワンプ・ロック的ストーンズ・スタイルのはじめの一歩であり、立役者のボビー・キーズ、レオン・ラッセルが初参加をしている。キースのコーラスも魅力の一つでしたが、近年のステージではストーンズらしい男女間の歌詞を女性シンガーとデュエットにしたアレンジも納得です。「Shine a Light」でのクリスティーナ・アギレラとの共演が印象的ではまっています。
Let It Bleed
キースはエレキ、アコギ、スライドギターの3役を兼ねる活躍で、特にスライドギターが饒舌に歌う。ミックのボーカルはアルバムを通して素晴らしく、特にこの曲ではボーカルの雰囲気、言葉の畳みかけは圧倒的。「血を流せ」で歌われる内容は、薬物使用やセクシャルなメタファーのオンパレード。 ”Cream“ に ”Parking-lot” は性的メタファーだとマリアンヌ・フェイスフルは自署で述べています。詩的な部分も含めボブ・ディランの「追憶のハイウエィ61」からの影響が伺えるフォーク・ロックのようなカントリー・ロックのような曲調。アルバムで1曲だけ参加しているピアノのイアン・スチュワートもこの名曲に立役者です。
Midnight Rambler
68年公開の映画『絞殺魔』のモデルにもなったボストン絞殺魔事件をテーマにした曲。ブライアン・ジョーンズを含むオリジナル・メンバーだけで録音された最後の曲。ミックのブルースハープやブギー的な進行には惹かれるのですが、テーマも含め暗い雰囲気が苦手な曲です。東京ドームでも演奏されたライブでも人気の曲です。
この事件は2023年にリドリー・スコット監督の『ボストン・キラー 消えた絞殺魔』としてキーラ・ナイトレイを主演に再度映画化がされている。
You Got the Silver
キース・リチャーズがリードボーカルを担当するカントリーロック。リードボーカルをとった理由について「単に仕事量を分散させるためだ」と自著で明かしています。コメントがカッコいいですね。聴いた当時は地味に感じましたが現在のキースのあり様と変わらない原点の記録です。ミックによるボーカル・ヴァージョンもあるそうです。
Monkey Man
薬中のジャンキーを意味するタイトルで、既知のイタリアの映画監督に捧げられている曲のようです。曲の内容はタイトルから想像できる通りですが、ともかくギター・ロックとしてアンサンブルも練られたカッコよい曲です。ロン・ウッドはこの曲をステージで取り上げるようにバンドに圧力をかけていたそうです。1994年の“ヴードゥー・ラウンジ・ツアー”で演奏されていますし、2002年のライブでのリクエストでも選曲される人気の曲のようです。何かの記事で読んだのですが、サウンドは素晴らしいがミック・ジャガーのやる気を感じないボーカルは減点と酷評されていました。そうですかね。
You Can’t Always Get What You Want
前作収録の ”Salt of the Earth” をもう一度という感じはします。ライブの定番曲ですが、私としてはスタジオ盤を越えるものはありません。イントロからエンディングの盛り上がりまで、仕掛けの多い構成に弾むリズムで進行する演奏は最高です。演奏にはロンドン・バッハ合唱隊を召喚し、ボブ・ディランの ”Like a Rolling Stone“ にオルガンで貢献したアル・クーパーが同じくオルガンで演奏に参加、弾むリズムはチャーリーではなくプロデューサーのジミー・ミラーがドラムを叩いている。ミラーは元々ドラマーですがここでは名演といえる貢献だと思います。「いつも欲しいものが手に入ると思うなよ」と歌われる歌詞は何度読んでも日本人には分かりにくい。トランプさんが自身の選挙集会で曲を使用する意図も理解不能です。
あとがき
私は高校生の時にAMラジオで流れた「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」をきいてストーンズを聴くようになりましたが「Let It Bleed」のレコードを買うまで遠回りをしています。「Through the Past Darkly」から70年代以降のアルバムを一通り集め、デビュー作から発表順に一枚一枚集めたので「Let It Bleed」は本当に最後になりました。昔はLPで本当によく聴いていたアルバムです。このジャケットは署名な料理研究家に依頼したモノらしいですが、ホイールやタイヤの上にケーキが乗る構図には当時から違和感はありましたね。
余談ですが今回書きながら、気になっていたMONOのCDを買っちゃいました。
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