Derek and the Dominos[Layla and Other Assorted Love Songs』

ROCK

デレク・アンド・ドミノスは、エリック・クラプトンの結成したグループ。スタジオアルバム『Layla and Other Assorted Love Songs(いとしのレイラ)』を1970年に発表している。

アルバム制作の背景として、クラプトンはデラニー&ボニーのツアーに同行し、ジョージ・ハリソンの「オール・シングス・マスト・パス」のアップルセッションに客演、初のソロアルバムを発表する。この辺が英国とアメリカにまたがって発生し、活動を通じて知己を得たボビー・ウッイトロックとバンドを結成することになる。それがデレク・アンド・ドミノス。半世紀も前のアルバムで、これほどの魅力を湛え、愛されるアルバムはロック歴史上でも稀なケースでしょう。デラニー&ボニーの影響は大きく、アメリカ南部のカントリー、ゴスペル、ブルースやソウルを吸収した英国人ブルース・ギタリストが自ら歌い体現する。一連の動きはスワンプ・ロックと呼ばれ、自身の親友の妻への横恋慕と苦悩を投影した曲群は、このスタイルの頂点を成すアルバムとなった。特にアルバムを象徴する「レイラ」は激情を隠さない熱い展開を聴かせますが、後半では一転して、スライダギターが奏でるセンチメンタルなフレーズが心地いい余韻を残す名曲です。

もうひとつの奇跡としてオールマン・ブラザーズのギタリスト、デュエイン・オールマンの参加がある。プロデュサー、トム・ダウドの紹介で共演をするわけですが、「魂の兄弟」となった二人のフレーズの交換は息の合ったジャムを繰り広げる。クリームのような攻撃的な対立ではなく、時にエキセントリックながらもゆったりと大きなノリで演奏を聴かせてくれる。クラプトンのボーカルは未だナイーブですが、本物の南部人ボビー・ウィットロックの太くマッチョな声でクラプトンを支え、歌ものとしても深い余韻を残す素晴らしいロックアルバムになっている。

  1. I Looked Away
  2. Bell Bottom Blues
  3. Keep On Growing
  4. Nobody Knows You When You’re Down and Out
  5. I Am Yours
  6. Anyday
  7. Key to the Highway
  8. Tell the Truth
  9. Why Does Love Got to Be So Sad?
  10. Have You Ever Loved a Woman
  11. Little Wing
  12. It’s Too Late
  13. Layla
  14. Thorn Tree in the Garden
  • プロデュサー:トム・ダウド、バンド自身
  • エリック・クラプトン:ギター、ボーカル
  • ボビー・ウィットロック:キーボード、ボーカル
  • ジム・ゴードン:ドラムス
  • カール・レイドル:ベース
  • デュアン・オールマン(ゲスト):リード&スライドギター(14曲中11曲に参加)

I Looked Away
クラプトンとボビー・ウィットロックの共作。恋愛の終わりと後悔をテーマにした、幕開けにふさわしいメロディアスな曲。二人のハモリが気持ちいいカントリーロック。

Bell Bottom Blues
クラプトンがパティ・ボイドに宛てて書いたとされる切ないバラード。サビのメロディに泣きそうなアルペジオ、感情のこもったギターとボーカルが印象的。

Keep On Growing
クラプトンとウィットロックのツインボーカルが素晴らしい。バンドのグルーヴ感にファンキーなギターの存在感はスワンプ・ロック好きにはたまらない。このオールマン・ブラザーズと共振するジャム感覚が後のデレク・トラックやレナード・スキナードらに引き継がれているようだ。

Nobody Knows You When You’re Down and Out
1920年代のブルースの名曲カバー。成功と孤独の対比を描いた歌詞がクラプトンに重なる。基本的にクラプトンが歌い、音程のきつい所にウィットロックがサポートに入るサザンソウルな仕上がり。ブルージーなギターも素晴らしく、カントリーとソウルにブルースが融和したお手本のような曲。

I Am Yours
16世紀の詩人ペトラルカの詩を元にしたラブソング。アコースティックなアレンジが美しい。

Anyday
クラプトンとウィットロックの共作。ソウルフルなツインボーカルがここでも素晴らしい。デュアン・オールマンのスライドギターが光る、大らかなノリのギターロック。

Key to the Highway
ブルースのスタンダードナンバー。ビッグ・ビル・ブロンジーがオリジナルの作者のようですがリトル・ウォーターやフレディ・キング、キース・リチャーズら様々なブルースマンが取り上げている。クラプトンの歌うここでのドミノス版がこの曲のスタンダードになりました。デュエインの入るセッションは71年発売のオールマンブラザ-スの「フェィルモア・イースト」に通じる名演です。

Tell the Truth
フィル・スペクターのプロデュースでロックン・ロールなシングル曲でしたが、それを破棄。デュエインとの掛合いによる腰の入ったミディアムになっている。太いデュエインのスライドギターが圧巻ですが、クラプトンのギターも歌も負けてはいない。

Why Does Love Got to Be So Sad?
邦題「恋は悲しきもの」。激しいギターと哀愁あるメロディが融合した、クラプトンの苦悩がにじむ名曲・名演。クラプトンの一人ギターバトルで既に激情漲るハードさですが、デュエインもギターをオーバーダブで重ねている。そこはかとなく漂うラテンな哀愁とポリリズムはサンタナにも響いたようで、後にサンタナは前座を務めたクラプトンの75年のツアーのアンコールでこの曲を客演しています。(Crossroads 2: Live in the Seventies収録)また71年の「サンタナIII」にも影響を与えている気がします。

Have You Ever Loved a Woman
フレディ・キングのブルース。ここではデュエインとのブルージーなギターソロの掛合いが聴き所。近年でもクラプトンがライブ演奏するブルースといえばこの曲。タイトル通りアルバムは“LOVE SONGs”で構成されています。

Little Wing
英国ギタリストに大きな影響を与えたジミ・ヘンドリックスの名曲。クラプトンも同じギタリストとして良きライバルとしてヘンドリックスには畏敬の念を抱いていたそうです。ヘンドリックスが他界する前には録音をしていたようで、追悼の意を込め収録されたそうです。原曲のシンプルな美しさは別格ですが、クラプトンは太い声と大らかウネリを加えた重厚なアレンジを施している。

It’s Too Late
米国のR&Bシンガーでソングライター、チャック”・ウィリス曲。コールアンドレスポンスが印象的なブルース色の強い曲。「彼女は行っちまった」と失恋の痛みをストレートに表現する歌詞が恥ずかしい。

Layla
レイラと変名になっていますがパティ・へのハリソンへの愛と苦悩が詰まった名曲です。前半の激しいギターリフと後半のピアノによる叙情的なパートが対照的で印象的ですが、実際はジム・ゴードンの弾いたピアノのフレーズをクラプトンが気に入り、後半の展開を取って付けたそうです。後日ウィットロックが語るところ、ジム・ゴードンの当時の彼女がリタ・クーリッジで彼女の弾いた「タイム」という曲のフレーズを覚えていたゴードンが勝手に披露してしまったそうです。クレジットにはクラプトンとゴードンになっていますがクーリッジも加えるべきだったとウィットロックはゴードンを非難しています。リタの姉のプリシアはブッカーTとのアルバムで「TIME」を録音し発表している。

Thorn Tree in the Garden
ボビー・ウィットロック作のアコースティックバラード。アルバムの締めくくりにふさわしい、静かな余韻を残す曲。

あとがき
ラジオフレンドリーな短尺でキャッチーな曲もなければ、クラプトンと分かるクレジットもない。クリーム時代のギターを期待する評論家には酷評され、売り上げも良くなかったそうです。アルバムの着想の元ネタとなったのはアラブの小説[Layla and Majnun]。東洋版『ロミオとジュリエット』と評される実らない悲恋の代名詞ともされてきた書籍のようです。印象的なアルバムカバーはクラプトンが滞在したジョルジオ・ゴメルスキー(初代ストーンズのマネージャー)宅に飾られていた絵画だそうです。パティの面影をみたのでしょうね。

デレク・トラックスや奥様のスーザン・テデスキらへの影響も大きい。

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