『ヴードゥー・ラウンジ』はヴァージン・レコードからの第一作で1994年の発売。
前作『スティール・ホイールズ』からワールドツアー、各自のソロ活動を経て発表した5年ぶりのオリジナル・アルバム。ビル・ワイマンの脱退後、マイルス・デイヴィスやスティングとの活動で知られるダリル・ジョーンズが準メンバーとして務めることとなった。相変わらず変なイラストジャケットです。音の作りは60年代風のローファイな感触を狙って仕上げているようです。プロデューサーはグリマーツインズと現ブルーノートの社長のドン・ウォズ。

- Love Is Strong
- You Got Me Rocking
- Sparks Will Fly
- The Worst
- New Faces
- Moon Is Up
- Out Of Tears
- I Go Wild #
- Brand New Car
- Sweethearts Together
- Suck On The Jugular
- Blinded By Rainbows
- Baby Break It Down
- Thru And Thru
- Mean Disposition
1. Love Is Strong
オープニングには通常、キャッチーで勢いのある曲が配置されることが多いですが “Love Is Strong” はその定石を外した少し変化球的な選曲です。ミックは低音のボイスから徐々に熱を帯びるように歌い上げ、歌詞はどこかストーカー的な怖さを感じさせる内容です。この曲はキース・リチャーズ主導で制作され、ミックは歌詞の一部を加えた程度の関与だったようです。実際、キースがボーカルを務めた初期バージョンも存在しています。ダークで不気味な雰囲気を醸し出すハーモニカは、楽曲の演出に大きく貢献しており、バンド全体はじっくりとしたグルーヴを奏でている。その雰囲気は、どこか『Dancing with Mr. D』を思わせる怪奇路線の印象。アルバムからファースト・シングルとして米国ビルボードで辛うじて91位にラインクイン。英国ではまずまずのヒットを記録しています。
2.You Got Me Rocking
60年代のストーンズに回帰したようなセカンド・シングル曲。カセットで録音したベーシック・トラックにオーバーダブをして仕上げた “Jumping Jack Flash” や Street Fitting Man” の勢いや音の質感を思わせるストーンズらしいロックな曲。ロンのスライドが曲に懐かしくも新風を吹き込んでいます。
3. Sparks Will Fly
チャーリー・ワッツのドラムがまず素晴らしい。ドラムとギターのコンビネーションはシャープで緊張感のある展開を聴かせてくれる。少しコミカルな歌詞を歌うミックもノリノリだと思います。
4. The Worst
キースの歌うカントリー・バラード。歌詞の内容からしてもシェリル・クロウとキースのデュエットが様になります。
5. New Faces
ブライアン・ジョーンズが古典的な楽器で曲に装飾的な音色を加えていた60年代を思わす曲です。ここではチャック・リーヴェルがハープシコードの音色を加えている。
6. Moon Is Up
ポップでテンポのいい60年代らしい曲。ミックのエフェクターを通したボイスと曲名からして68年のシングル” Jumpin’ Jack Flash”のB面の名曲“Child Of The Moon”を思い出します。
7. Out Of Tears
確かにミックらしい歌唱はソロアルバムとは違った味わいがあります。久しぶりに名曲の評判を得たソウルバラード。
8. I Go Wild
ワンリフで押し通すギターも務めるミック主導の曲。チャーリーのドラムが非常にパワフルでライブでの派手な演出を想定したエキサイティングな曲です。(ブレイクも何気にカッコいい)
9. Brand New Car
音数の少ないシンプルなアンサンブルは、ブルースのカバーバンドだった初期のストーンズを彷彿とさせます。名曲・名演とまではいきませんが、いなたい味わいのトランペットと、ウォーキング・テンポのギターリフはジミー・リード風の懐かしいリズム&ブルースに仕上がっています。
10. Sweethearts Together
ミックとキースによるデュエット曲。マリアンヌ・フェイスフルは、かつて二人の間に性的な関係があったのではないかと回想しています(この曲に直接言及したわけではありませんが)。そうした背景を知ると、この曲もまるで恋人同士の歌のように聴こえてきます。フラーコ・ヒメネスによるアコーディオンが、のんびりとした牧歌的な雰囲気を添える、穏やかなカントリー・ソングです。
11. Suck On The Jugular
ジャガーをしゃぶれなんて普通言わないでしょう。特にジャガーのボーカルが聴きもので、ドラムもベースもカッコいい性的比喩の危険などえらいパーティー・ファンクです。
12. Blinded By Rainbows
タイトルからも名曲「She’s a Rainbow」を連想させますが、内容は快楽や虚偽の情報によって盲目的になる人々への批判を含んだ、意味深い楽曲のように感じられます。それでも、感情に訴えかけるような美しいバラードであり、特に間奏のギター・フレーズは非常に印象的。
13. Baby Break It Down
キースのソロアルバムにあるようなミディアムテンポ曲。
14. Thru And Thru
フォークともブルースともつかない荒削りで骨太なバラード。アルバムの中でも重要な1曲と評されることもありますが、その評価には少し戸惑いも感じます。当時親交のあったトム・ウェイツの影響を思わせるように、キースの歌声にはどこか殺気を帯びた緊張感が漂っています。
15. Mean Disposition
タイトルはマディ・ウォーターズの同名曲へのオマージュと考えられますが、楽曲自体はブルースというよりも、チャック・ベリー風のロックンロールに近い印象です。60年代のアルバムに収録されていた”Miss Amanda Jones”のようなストレートで原点回帰的なロックを志向して作られた楽曲だと思います。
あとがき
総合プロデューサーを務めるウォズは「メインストリートのならず者」のようにLPのABCD面で作風の違う構成のアルバム制作を提案したようですが、ミックに却下されたそうです。落としどころが60年代回帰だったのでしょかね。
60年のストーンズを愛するファンには久しぶりにうれしいアルバムではないでしょうか。ただし15曲収録ではなく、もう少し刈り込んでくれたらありがたみが増す気がします。ブルースやロックンロールぽいシングルB面に回された”The Storm“、”So Young”、” Jump on Top of Me”や”I’m Gonna Drive”も中々佳曲で聴き聴きごたえがあります。
自己紹介
中学生の頃から40年以上ロックを中心に聴き続け、集めたCDの枚数およそ1万枚。溢れるロックで60年代、70年代、80年代のロック・レジェンド達や、ちょっと希少なアーティストの素晴らしいCDを紹介しています。ロックだけでなく、ジャズやソウル、日本のロック、フュージョン、洋画&邦画のブルーレイ、書籍、ロックのボックスセットなど、気の向くままに一日一枚60年代ロック、70年代ロック、70年代ロックのおすすめ作品を紹介します。
コメント