Rolling Stones [Bridges to Babylon]

Rolling Stones

『ブリッジズ・トゥ・バビロン』は1997年にリリースされたアルバム。エレクトロニクス、ドラムループやサンプリング等のヒップホップの手法を取り入れたアルバムとして認識をしています。ミックとキースがそれぞれ曲を持ち寄った曲と、二人の共同作業による曲の3つのケースがあるようでプロデューサーもバラバラなのと志向の違いは当然のことに思えます。私としては90年代後半らしい音の質感を称えた作品として違和感なく愛聴しています。

  1. Flip the Switch
  2. Anybody Seen My Baby?
  3. Low Down
  4. Already Over Me
  5. Gunface
  6. You Don’t Have to Mean It
  7. Out of Control
  8. Saint of Me
  9. Might as Well Get Juiced
  10. Too Tight
  11. Thief in the Night
  12. How Can I Stop

1. Flip the Switch
アルバムのオープニングは、バンドのスイッチを入れるストーンズらしいロックナンバー。ベテラン中年ロッカーらしい韻を踏んだ歌詞は、電気椅子で死路へ向かう自虐的な惜別の内容。アップライト・ベースの起用に、チャーリーのドラムがフロア・ライクな4つ打ちではなく、疾走系のロックなドラムになっているのがうれしい。ざらついたクリアな音色のギターはイントロから、かつてない質感で迫ります。キースとロニーはソロとリフを自由に交換する無駄のないコンビネーション。64年デビューのバンドがパンクやニューウェーブを昇華し、結実させたこのスピード感は、他のアルバムでは聴くことはできない境地です。ライブ「No Security」でもこのスピード感は再現できなかった。

2. Anybody Seen My Baby?
確かアルバムに先駆けて公開されたパイロット的なシングル曲。個人的にはときめかなかった曲ですが、若き日のアンジェリーナ・ジョリーが坊主頭のストリッパー役でプロモビデオに出ていることは特筆に値する。

3. Low Down
下世話なゴシップ雑誌に言及するユーモラスなアルバムのチェンジ・オブ・ペースとなるヘビーなナンバー。ざらついた質感で聴くブルージーでヘビーなギターリフは悪くない。「俺とお前の秘密だぜ」というコーラスが笑わせます。

4. Already Over Me
ミック主導の曲でベビー・ファイスとのコラボを破棄して作り直した曲のようです。セッションに参加しているのは有名な名人たちですが、売れっ子ドラマーのケニー・アロノフのクレジットが “バケツ”とは笑えます。カントリー・バラード調でキースのギターソロやロニーのボトルネック・ギターが良い味わい。ダニエル・ラノワがプロデュースを手がけるディランのアルバムようにダークで深い余韻を残す隠れた名曲です。

5. Gunface
「顔に銃を突きつける」といった怖い内容が歌われています。ギターリフの効いた従来のストーンズの型を外れることはない手堅い曲です。

6. You Don’t Have to Mean It
キース・リチャーズがリードボーカルを務めるオリジナル・レゲエ。スタイル的にはホーン陣も活躍するメロディアスで穏やかなロックステディ。このハッピーなヴァイブレーションは、キース流レゲエの一つの到達点でしょう。

7. Out of Control
確かに、テンプテーションズの『Papa Was a Rollin’ Stone』の影響は、ベースラインやドラマチックな展開の中に色濃く感じられます。かつてのライブの定番「ミッドナイト・ランブラー」のブルース的インプロヴィゼーションと、メリハリの効いた構成はライブで映えるもの納得です。

8. Saint of Me
ダスト・ブラザースがプロデュースを担当。ダンサンブルでエンターテイメントな構成はストーンズらしくありませんが、前作のヒット曲「ロック・アンド・ハードプレイス」よりしっくり聴こえます。キャッチーなフックもありシングとして、英米でそこそこヒットしている。珍しく宗教に踏み込んだ歌詞ですが、キリスト教に改宗した聖アウグスティヌスらに言及し、ミックのような罪深い自分が聖人に称えられることはないと述べている。ミックらしい自虐的なユーモアだと思います。通の間でファンの多いミシェル・ンデゲオチェロがベースを担当し、キースは録音に参加をしていない。この曲もライブ映えするメリハリの効いた構成で、もはやストーンズのスタイルの一形態と言えるでしょう。

9. Might as Well Get Juiced
ダスト・ブラザースと組んで、ディープなブルースをエレクトロニックに発展させた進化形態。かつてのドクター・ジョンやキャプテン・ビーフハートの土着的なブルースのおどろおどろしさをサウンドエフェクトで表現しようと試みているようです。

9. Always Suffering
カントリータッチでメランコリックなバラード。

10. Too Tight
きつすぎだぜ」と女性関係に言及する典型的なストーンズの歌詞。#1同様に本アルバム特有の空間設計とギターの質感を活かした狂おしいロックンロール。タイトでスムーズなスピード感は#1をしのぎます。AC/DCの曲を思わすイントロとハードなギターロックは私のストライクゾーンです。ワディ・ワクテルがギターで参加しているので、キースのソロからの流用かも知れません。

11. Thief in the Night
キース・リチャーズがリードボーカルを務める。これはオルタナ・カントリーとしても名曲でしょう。ダニエル・ラノワ、後にサン・ボルト一派やバディ・ミラーらが追求するカントリー、ブルースとゴスペルの融合がここに結実しているように思えます。

12. How Can I Stop
アルバムの最後を飾す感動的なフィナーレ。どうしても「エモーショナル・レスキュー」のクロージング “All About You” を思わすバラードです。「ストーンズ=ミック」を期待する典型的なファン層に対し、キースのボーカル曲を3曲も収録することは、売り上げにマイナスの影響を及ぼすという意見があったそうです。それならば最後の2曲を曲間無くつなげてしまえば”1曲”だろうという乱暴な判断があったそうです。真相は分かりませんが、終盤に2曲連続には違和感を感じましたし、確かに3曲は多い気がします。

あとがき
あるブログでストーンズの歴代スタジオ・アルバムをランキングしていて、『Bridges to Babylon』はなんと35作中の最下位、35位という結果でした。確かに、キースとミックががっちり組んだ曲は全体の1/3程度で、アルバムとしての統一感には欠けるかもしれません。でも、あのギラギラした現役感はまだまだ健在だったと思います。収録時間が35分程度のアルバムと、75分を超えるアルバムでは、どうしてもクオリティコントロールや統一感に差が出てしまうものです。全盛期の作品と比べれば分が悪いのは否めませんが、それでも私は全時代のアルバムを愛聴しています。好きな作品はもちろんありますが、ランキング形式で聴かれるとちょっと困ってしまいますね。でも、そういう企画に一度参加してみたい気持ちもあります。

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