Jimi Hendrix [Electric Ladyland]

Electric Ladyland Jimi Hendrix
Electric Ladyland

愛を創造し神への謝辞から始まるアルバムは、最後に”Voodoo Chile”として自然を操る全能者の降臨で締めくくられる。当初はストック曲やセッションの寄せ集めと捉えていたこのアルバムには、実は一つのアポカリプス的なコンセプトとストーリーが存在していたのですね。

Electric Ladyland
Electric Ladyland
  1. …And the Gods Made Love
  2. Have You Ever Been (To Electric Ladyland)
  3. Crosstown Traffic
  4. Voodoo Chile
  5. Little Miss Strange
  6. Long Hot Summer Night
  7. Come On (Let the Good Times Roll)
  8. Gypsy Eyes
  1. Burning of the Midnight Lamp
  2. Rainy Day, Dream Away
  3. 1983… (A Merman I Should Turn to Be)
  4. Moon, Turn the Tides…Gently Gently Away
  5. Still Raining, Still Dreaming
  6. House Burning Down
  7. All Along the Watchtower
  8. Voodoo Child (Slight Return)

1968年に発売されたジミ・ヘンドリックスの3rdアルバム『Electric Ladyland』は、念願のエレクトリック・レディ・スタジオの完成を祝して名付けたと思っていたが、実際にはロンドンのオリンピック・スタジオやニューヨークのレコード・プラント・スタジオで録音されている。(スタジオの完成はアルバムの完成後であった)本作では、ロック、ブルース、ジャズ、ファンクやサイケデリックなどの多様なスタイルが融合し、不協和音で崩壊寸前のエクスぺリンスを見限り、スティーブ・ウィンウッドなどのゲストミュージシャンを迎え、新たな音楽の探求が行われている。

…And the Gods Made Love
1:20秒程でスタジオでの音響やエフェクト効果を駆使した導入曲。神の作りし愛への謝辞で厳かにアルバムは幕を開ける

Have You Ever Been (To Electric Ladyland)
前曲のサイケデリックな導入を受け、ジミ・ヘンドリックの幻想する理想郷 「エレクリック・レディランド」へ誘う。そこは愛に溢れる電脳の空間であり、電気の女性や天使が翼を広げる場所。カーティス・メイフィールドを思わせるファルセットを交えた歌唱はソウル色が濃厚。後にレニー・クラベッツもカバーしている。

Crosstown Traffic
裏声コーラスも入り、少しファンキーでソウルな味わいがあるハードなロック。交通事情と恋愛を渋滞にかけ辿り着く困難を表現している。同時録音演奏なのか?リズムとリードギターの2役にギター音に笛(カズー)を被せる荒業が聴ける。

Voodoo Chile
一回目の「ブードゥーチャイル」。マディ・ウォーターズの“Rolling Stone”, ”Manish Boy”を下敷きに、トラフィックのスティーヴ・ウィンウッドらを交え、ジャム・セッションを繰り広げた生々しい記録の切り取りなのだろう。替え歌みたいなものなので元曲の”a boy chile coming’”で響きは、”a voodoo chile”なのかもしれない。

Little Miss Strange
ノエル・レディングの曲と歌。チェンジ・オブ・ペースでいいと思う。

Long Hot Summer Night
この曲想ならストレートなロックンロールになるのだろうが、リズムの構造、特にドラムが明らかにファンクを志向している。コーラスも怪しく後年のアイザレー・ブラザーズの曲のようだ。

Come On (Let the Good Times Roll)
アール・キングが作曲したロッキンブルース。ジミヘンがカバーしたことで、より広く知られるようになった。原曲のキャッチーな魅力を引き出した素晴らしい名演である。作者のアール・キングはニューオリンズで活躍した自作自演のブルース歌手でいいアルバムを発表している。

Gipsy Eyes
フットストンピングやギターの単音弾きは、ジョン・リー・フッカーのオマージュだと思う。この曲がブルースの伝統からインスピレーションを受けていることは明らかで「ジプシー・アイズ」というフレーズも「モジョ・ハンド」「ブラックキャット・ボーン」のようなブルースの常套句と同様に、神秘的な響きを持っている。このような要素が曲に深みと奥行きを加えている。 映画ブルース・ブラザースのワンシーンのようにジョン・リー・フッカーが、ストンピングでリズムを取りながら、例の単音フレーズをかき鳴らし、深いブルース・ボイスで唱ってほしかった。

Burning of the Midnight Lamp

「賭博師サムのサイコロ」をB面にシングルカットされ英国チャートで18位を記録。ベースはブルースなのだろうが、ハープシコードにワウをかけたギターのハーモニーはミステリアスで深淵な響き。孤独なリリシズムを称えた歌詞は美しくもある。指メガネ?の茶目っ気ある日本のシングルのジャケットはどうだ。

Rainy Day, Dream Away
この曲から次の2曲分13分のジャムを挟んで、“Still Raining…”まで一括りなのでしょう。マイアミ・ポップ・フェスティバルでの雨の光景を描写した曲だそうです。雨の日に夢見心地でいい気持ちの心理状態を表現したポジティブな曲のようだ。淡々としたリズムにサックス、ワウを利かしたギターとオルガンがうねうねとジャムぽく進行し、フェードアウトであっさり終わる。

1983… (A Merman I Should Turn to Be)
まずタイトル。録音当時は68年なので15年後の近未来を指す年号のようだ。ジョージ・オーウェルによる「1984」というディストピアを描いたSF小説が有名だが、ジミヘンがこの曲の詩で描く終末観との関連があるのだろうか。13分超えのサイケデリックなジャズ・セッションをバックに兵器開発や戦争、機械による支配で荒廃する地上を逃れ、人は海に還るべきと主張している。60年代後半のヒッピー文化を色濃く反映していますね。

Moon, Turn the Tides…Gently Gently Away
58秒の幻想的なサウンドスケープで海中での冒険や新しい世界への移行を描いている。人魚やネプチューンも登場するディストピアから転じて楽園のような明るい描写。

Still Raining, Still Dreaming
引き続き雨の日に夢見心地でいい心地よいヘンドリックス。マイク・フィニガンによるオルガンがちょっと前に出てきているが、曲調は全曲とそれほど変わらない。

House Burning Down
家が燃えてる!火事を見に行く野次馬的な歌なわけないよね。当時の社会情勢、特に黒人差別や暴動に関するテーマを扱っている。ギターのイントロからしてジミヘンの気合がみなぎり、ファンキーなハードロックになっている。

All Along the Watchtower
今の耳にはどうかと思うがまずは聴いていただきたい。ボブ・ディランの素朴な原曲を歴史に残る名曲に仕立てたジミ・ヘンドリックスの技である。(ディランも感服して曲の印税はジミのものだと言っている)原曲を踏襲したアコギのリフが、意味不明の歌詞にもかかわらず聴く者の幻想を掻き立てる。間奏でのギターの素晴らしいこと。瞬発的なスピード感、めくるめく展開とワウ等のエフェクターを駆使したコズミックな音色の斬新さ。youtubeでギター腕自慢が再現演奏を試みる動画を見るとヘンドリックスの凄さがよく分かる。

Voodoo Child (Slight Return)
トグロを巻く大蛇の如きギターが、空中をのたくる異様な音設計には大変驚きました。自身を「Voodoo Child」と称し、自然を操る全能の神のごとく「山の隣に立って、その山を手のひらで切り倒す」と力強く歌う。サウンドのインパクトもすごいが、自身のカリスマ性と創造性を意識したジミ・ヘンドリック無双ぶりでしょう。

余談になりますが、ブードゥー教の儀式や死者の蘇生を題材にした「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」などのゾンビ映画を見た80年代当時、高校生だった私は「Voodoo Child (Slight Return)」もそういったテーマの曲だと思っていました。しかし、実際には全く違うものでしたね。

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