Rolling Stones [Exile on Main Street]

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  1. Rocks Off
  2. Rip This Joint
  3. Shake Your Hips
  4. Casino Boogie
  5. Tumbling Dice
  6. Sweet Virginia
  7. Torn and Frayed
  8. Sweet Black Angel
  9. Loving Cup

10. Happy
11.Turd on the Run
12. Ventilator Blues
13. I Just Want to See His Face
14. Let It Loose
15. All Down the Line
16. Stop Breaking Down
17. Shine a Light
18. Soul Survivor

    ローリング・ストーンズ 『メインストリートのならず者』
    1972年発売のこのアルバムを後追いで聴いた高校生時、35年前になる。以前からロックを聴いていたが、このアルバムを機に同時代のアーティストや彼らに影響を与えたブルースやソウル等のルーツミュージック、そしてこのアルバムが影響を与えた後続のアーティストのアルバムを探して聴くようになった。時間軸を前後に行き来しながら、イギリス、ニューオリンズやアメリカ南部など空間をまたぐロックの聴き方をするようになる。

    このアルバムが内包する独特の空気感、音の空間設計は、「煙草やスチーム蒸気の充満した地下室で汗だくの男たちが朝まで働いて音を作って、疲れ切って寝て起きて録音し、南仏のワインをガブ飲みする。そうして作ったアルバム」というのが所見。

    もこもこした音像はトーンズ所有していたトラックを改造した移動録音システムを南仏の別荘の地下室に持ち込み録音をしたから。ストーンズの前後のアルバムと比べても特異な空間設計である。よく言われているように 82年 Tom Waitesの [Bone Machine] に感触は近いのかもしれない。あえて言うなら他にツアー中のバスやホテルの部屋、バックステージで録音を試みた77年ジャクソン・ブランウン [Running on Empty]B.B. キング、ボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリックスのカバーやクワイアとの共演等のアメリカ南部のルーツへ接近したドキュメンタリー映画のサントラでもある97年U2の [Rattle and Hum]。同時代性で言えば、スティーブ・マリオット率いるハンブルパイの73年の[Eat It]。このアルバムはまさに”Exile……”に対抗し、俺たち流にやればこんなもんだ的なアルバムである。これも傑作である。

    これらの共通項は当時アメリカ南部で攻勢であった音楽的トレンドである。スワンプ・ロックに影響を受けている事。白人的なロックの感性に黒人的なフィール、ブルース、ゴスペルやソウルの影響が加わり融合している事。これが複雑なテキスチャーをアルバムに与えている。この時代の英国アーティストの作品に多少なりとも影響を与えている感性である。

    1. Rocks Off
    ストーンズ屈指の名曲。キースの弾くイントロから緩い感じで始まり、ベースのもこもこした音像ながら妙な疾走感があり、ミックも「ダンサーが俺の上でスピンする」などのスリリングな歌詞を勢いよく吐きだす。グルーブする2本のリズムギター、もこもこしたベースが作る空間をチャーリーの素晴らしいドラムとサックス&トロンボーンが背後から突き上げる。ブラック・クロウズも素直にカバーしている。こちらもいい。

    2. Rip This Joint
    ミックとキースのツインボーカルで極めて躁状態である。荒々しくエネルギッシュでパンキッシュな勢いにまかせた曲。当時のライブの終盤の定番で、ライブの方がテンポアップしている。長らくブートレッグでしか聴けなかったが、1973年のツアーの記録「Brussels Affair」で正式に聴けるようになった。ロカビリーっぽいロックンロールだが、どちらかといえばリトル・リチャードやサックスも入ったニューオーリンズのR&Bを感じさせるロッキン・ブルース。

    3. Shake Your Hips
    前述したSlim Harpoの66年のヒット曲のカバー。奇妙なエコー感の中、筋力を感じさせないリズムギターとタムが機械的に響き、シャウトは混じるが淡白にミックが「腰を振れと」とひたすら吟ずる。当初あまり曲に魅力を感じなかったが、ジョン・リー・フッカーの影響下にあるスリム・ハーポのオリジナル(2バージョンある)を聴きこの曲の魅力に気づく。私はSlim Harpoのオリジナルが好きだ。ストーンズライブ アルバム「Got Live If You Want It!」というタイトルは、Slim Harpoの曲「Got Love If You Want It」のもじり。
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    4. Casino Boogie
    これも前述の通りストーンズのオリジナルだが、ギターはウォーキング・テンポのリズムギターが特徴的なエディー・テイラー風でジミー・リード マナーのブルース。これにスライド・ギターが絡むのがストーンズ的。ジミー・リードはブリティシュロックに多大な影響を与え数々のカバー曲が存在する。ストーンズは1stで“Honest I Do”をカバーしている。

    5. Tumbling Dice
    女垂らしのチンピラ風ギャンブラーのリスキーな職業のお話。個人的には内容が「Rock Off」と地続きだと思う。キースのリズムギターもいいがミック・テイラーのスライドがイントロから終盤まで大活躍。これが主役といいたいが、ドラムもミックの歌唱もロスでダビングした黒人女性陣のゴスペル風コーラスも全てがいい。後半のドラムの怒涛の展開を聴いてほしい。プロデューサーのジミー・ミラーがチャーリーに蛇足だと反対され自らドラムをたたいている。これがいい。

    6. Sweet Virginia
    録音が地下空間で実際に行われていたなら楽器の鳴り、キース、ミックやチャーリーのドラム等の演者の位置関係が生々しく感じられる音像設計。キース及びカントリーロックの雄グラム・パーソンズが奏でるアコギの鳴りがいい。いなたいコーラス、ボビー・キーズのサックス!私が初めてカントリーと認識した曲。

    7. Torn and Frayed
    クレジットはないがグラム・パーソンズとのコラボ曲。曲の基礎は彼とキースによるカントリー・ロック。グラム人脈のペダルスチールギターが活躍し、ミック・テーラーはベースを弾いている。キースとミックのツインボーカルが魅力。ブラック・クロウズがライブでカバー。

    8. Sweet Black Angel
    黒人解放運動に積極的に関わり、1970年に政治的な理由で逮捕されアンジェラ・デイヴィスにインスパイアされた曲。ミック・ジャガーが「アンジェラを救え!」のポスターを見たことがきっかけでこの曲が書かれた。70年代のアフロの黒人女性像やニナ・シモンズ作の「To Be Young, Gifted and Black」のイメージが結びつく。

    9. Torn and Frayed
    クレジットはないがグラム・パーソンズとのコラボ曲。曲の基礎は彼とキースによるカントリー・ロック。グラム人脈のペダルスチールギターが活躍し、ミック・テーラーはベースを弾いている。キースとミックのツインボーカルが魅力。ブラック・クロウズがライブでカバー。

    10. Happy
    キースが歌う。”Happy”というタイトルからしてどうなのか。「宵越しの金は持たねぇ」「俺のポケットには穴が開いている」「教育ママをハッピーにしことなんてねぇ」なんて歌詞を是非聞いてほしい。74年あたりのツアーではキースがリードでミックが合いの手やボーカルでもサポートしてたけど、近年じゃミックの休憩タイムのナンバー。ライブバージョンも聴いてほしい。

    11. Turd on the Run
    ブルースの影響を受けたアップテンポな曲。ミックのハーブがいい味を出している。内容は「アンタのズボンにすがりついて懇願したけど・・」等少しユーモラスな要素が含まれている。2004年東山 彰良「逃亡作法”Turd On The Run”」はこの曲へのオマージュだろう。

    12. Ventilator Blues
    換気扇のブルース。南仏ヴィラの地下室の換気が多分悪いのだろう。ドラッグの禁断症状や体調の悪さ、脅迫観念のような押しの強さとミックの声のドスが効いている。

    13.I Just Want to See His Face
    私にはクリント・イーストウッド主演のニューオリンズでの娼婦連続殺人事件を描いた映画「タイトロープ (Tightrope)」のワンシーンを思わせる。ニューオリンズの路地からほど近い洗濯物シーツが何枚も干してあるスチーム蒸気のむんむんのロケーション。蒸気の中から「大丈夫・大丈夫これ聴いてリラックスしろよ」とくぐもったミックの声が聞こてくる。

    14.Let it Loose
    マーティン・スコセッシの2006年の映画「ディパーテッド」に使われた。”Shine a Light”も彼の監督映画のタイトルになっとる。ストーンズ流のゴスペルバラードが好きなんだろうね。

    15. All Down the Line
    アルバム後半(LPではD-1)に勢いを加えるストーン流ロック。単音スライドが走りブラス隊が突き上げる。にスワンプ・ロック流儀の装飾が少々。所謂トレイン・ソングと言われるが、その文脈ではジョニー・バーネット・トリオ、ヤードバーズ「トレイン・ケプト・ローリン」、暴論かもしれないがクイーンの「ブレイク・スルー」(列車の上で歌っているミュージック・ビデオを見てほしい)につながる系譜だと思う。終盤におけるミックのアドリブ歌唱が最高です。

    16. Stop Breaking Down
    デルタブルースの父ロバート・ジョンソンのカバー曲。エリック・クラプトンの得意なオリジナルを尊重したロック翻訳。(クロス・ロード、ステディ・ローリングマン等)ミック・テイラーのスライドがいい。ミック・ジャガーの歌唱はもちろん素晴らしいがリズムギターもミックらしい。

    17. Shine a Light
    「地の塩」「無常の世界」の系譜にある終盤を盛り上げるゴスペル風の曲調だが、歌詞は「払えきれない程お前にたかる蠅ども・・・光あれ」と汚い都会で生きる女性の魂の救罪をについて。単純なイエスを称えるゴスペルではない。

    18. Soul Survivor
    アルバムの締めの曲は海賊の曲。魂の生残りとは?
    あえて暴論だがジョニデの映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の世界観は少なくない部分がこの曲と被ると思う。”mutiny” “Cut Throat crew”等の単語も歌詞に登場。

    発売当時、批評家から賛否両論だったが、後年その評価は見直され、今日ではストーンズの最高傑作と言われている。私も初めて聴いたときは返品したいくらい馴染めなかった。しかし、すぐにこの記事の冒頭で書いた通り、私の音楽人生とお金の使い方を今に至るまで変えた罪作りなアルバムである。沼にハマった諸兄も同感だろう。

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